3.10.2009

Sky's The Limit


見たことのない、聴いたことのない、完全に新しい衝撃的な体験は精神の天井を突き破り、無限の可能性の秘められた広い空へと連れ出してくれる。

既成概念を打ち破るそのような体験をさせてくれる作品は、私たちにこれから初めて見る世界への希望を与えてくれる。
見たこともない、聴いたこともない、何か素敵な世界との出会いがきっと待っている、そんな期待を抱かせてくれる。
何にも感動することができなくなったら、人は深い深い海底の底に沈んでしまったように世界に無関心になり、未来など消え去ってしまうだろう。今も過去も何もなくなってしまう。死。
笑い、悲しみ、怒り、楽しさ、なんでもいい、心が感じたことのない、感じたことのある中で最高の、できれば記録を更新するようなものすごいのがいい、そんな心の激的な躍動が生きる希望を与えてくれる。
過去を輝かせ、今を無上の幸福感で包み込み、そして未来を作るのがその感動。
だから今日も明日もいつだって未知の何かを探すんだ。

チャロー・インディア展 - 森美術館・六本木ヒルズ



トゥクラール&タグラ Phantom IX-B (detail)

昨日森美術館で開催されているチャロー・インディア展を見に行きました。
現代アートばかりですごい面白かったです!
インド美術をここまでまとめて生で見られる機会ってそうそうないんじゃないでしょうか。
インドというバックボーンを持ってグローバル化した今の世界と向き合った作品たちからは、日本にいては感じられない文化のカオスの香りがしました。
15日までなので興味ある人はお早めに!!



ヒンドゥー教とイスラム教とキリスト教と仏教の伝道師みたいのが集まって井戸端会議をしてたり
象さんの皮膚を人の精子がぐるぐる覆い尽くして象さんが苦悶の表情をしていたり(象さんてインドじゃ神聖?ヒンドゥーが牛で象は仏教か)
国内の劇的な貧富の格差が1ルピーにまつわる2つの報道から浮き彫りにされていたり(巨大な1ルピー硬貨には命の重みがあった・・・)
椅子生活と座敷生活、神聖な白と雑多な色彩などの対比が西欧とインドの文化的摩擦を描いていたり
西洋人を人質にして目隠しをし壁に埋め込み、インド味にレイプした西欧文化式豪奢生活空間だったり
ゴミで世界はできていたり(ゴミの循環、H2Oの循環の如く、)
迷路のような要塞で閉鎖的な空間とされた裁判所を描き「都市計画の代替案/中庭」なんてタイトルをつけてみたり(中央の高くなった席とその下で向き合って配された二つの席がどう見ても裁判所にしか思えなかったんだけど違うかな・・・民衆の生活との乖離??)
Asim Purkayastha(アシム・プルカヤスタ)の作品はガンジーに多重人格を持たせ非道徳的な振る舞いをさせたり(マイノリティーの!多様性の!大いなる肯定!)
(追記:日本語で「ガンジー 眼鏡無しの男」なんて題名を訳してるけど、Man Without Specsって原題からすると「不具の男」ぐらいのニュアンスなんじゃないだろうか。これすごい差別用語で問題だから当たり障りない訳にしてるような気がする。)

Kiran Subbaiah(キラン・スッバイア)って作家のビデオ作品が一番面白かった。
死は不可逆変化である。この作品では【僕】が経験する死は巻き戻し再生される可逆な変化として描かれる。
時空間や自我の唯一性に揺さぶりをかけた不思議な映像が、自殺して「神になる」青年の独白による「遺書」となる。神になった【僕】を誰もが羨むだろうと【僕】は言う。
【僕】がはしごを登り天国に行くシーンの舞台セットは、【僕】によっていとも簡単に解体されて日常の生活空間に戻される。神はもはやいない。
多用される【僕】という主語が指示する対象が曖昧になり、死後の【僕】と生前の【僕】の2人が同時にもしくは交互に画面に現れる。(見た目は同じ一人の【僕】だ。)
【僕】は【僕】に殺される。
最後の最後にどんでん返しが起こり、死んだはずの【僕】が部屋の掃除を終えてゴミを持って揚々とキッチンに出てくる。
そしてラジカセでポップ音楽を再生しながらデタラメな料理をする。野菜を包丁や鋏でデタラメに切る。
そこで聞こえる歌詞は直前の死の場面で歌われたものとほぼ同じものである。
陳腐な恋の歌がほんの一部分を死に置き換えるだけで恐ろしい悪魔の歌になる。
【神の死んだ】現代の【豊かな】生活に死の匂いが充満していることの隠喩だろうか。
これは「悲しい物語ではない」。もしかすると精神世界での2人の【僕】の葛藤だったのかもしれない。
Kiran Subbaiahのホームページ
http://www.geocities.com/antikiran/

ここでもantikiranなんて、自分殺しだ。
「僕はアーティストじゃなかったのかもしれない、フランス風の哲学者だ」なんて言っちゃうあたり、にやり。
この人はなんでも脱構築しますね・・・。
ホームページには映像、彫刻、音楽やPC上で動くメディアアートも載せられています。

以下展示物のいくつかを。





















event title :
「チャロー!インディア:インド美術の新時代」展
artist(s)/Band name :
ヘマ・ウパディヤイ | ジジ・スカリア | A・バラスブラマニアム | キラン・スッバイア | プシュパマラ・N. | ヴィヴァン・スンダラム | N・S・ハルシャ | クリシュナラージ・チョナト | ジティッシュ・カッラト | ニキル・チョプラ | リーナ・サイニ・カッラト | トゥクラール&タグラ | ランビール・カレカ | アトゥール・ドディヤ | シルパ・グプタ | サルナート・バナルジー | スボード・グプタ | ジャガンナート・パンダ | バーラティ・ケール | アシム・プルカヤスタ | グラームモハンマド・シェイク | ジャスティン・ポンマニ | ナタラージ・シャルマ | プラバヴァティ・メッパイル | トゥシャール・ジョーグ | ラクス・メディア・コレクティヴ | アナント・ジョシ |
event contents :
“チャロー”はヒンディー語で“行こう”を表す言葉です。チャロー!インディア(行こうよ!インドへ)を合言葉に、あなたもインド現代美術の新たな創造性と活力に出会う旅へ出かけてみませんか。本展は、インド各地を拠点に活躍する27組のアーティストによる絵画、彫刻、写真、インスタレーションなどさまざまな作品を通して、国際的に大きな注目を集めるインド現代美術の「今」の姿を浮き彫りにする展覧会です。
アジアの大国インドは1947年の独立の後、欧米から移入された近代的な美術と独自の文化に基づいた表現の探求が続けられてきました。この60年間で、徐々に政治的・社会的な批判を体現した新しいタイプの作品も生まれてくるようになり、90年代以降は急速な経済発展とグローバル化、さらには都市化や変容する現代のライフスタイルを反映した作品が登場し始めました。現在では、美術の市場拡大もあいまって、活発なアートシーンがインドの国内外に展開されています。
「チャロー!インディア」展では建築家や知識人を巻き込んだ社会学的なプロジェクトや、IT大国ならではの先端技術を駆使した体験型作品など、100点以上の作品が登場します。悠久の歴史や神々と信仰、歌って踊るボリウッド映画、目覚めた経済大国といった言葉では語り尽くせないインドの魅力。本展では、インド現代社会が抱えるさまざまな矛盾、彼らの抱く夢や希望、未来へ向かうエネルギーと向き合い、その実像と新たな魅力に迫ります。